Tradition 2020年5月07日

バイエルン・ビールとその醸造技術

ドイツの国民的ドリンク、ビールはバイエルン州では基本的栄養食品とみなされ、「飲むパン」とも呼ばれています。伝統的なバイエルン州の朝食に白ソーセージとハニー・マスタード、ブレツッェル、そして何と言っても白ビールが欠かせないのは不思議ではありません。バイエルン州の昔からの教えによれば、この栄養価の高い朝食は12時までに食べることになっていて、さもなければ、白ソーセージの天国への道が閉ざされてしまうと言われています。では、ここからバイエルン州のビール神話の真相に迫っていきましょう。まずはドイツよく使われる乾杯の挨拶から-「神よ、ホップと麦芽をお守りください」。

ドイツビールの先駆者、バイエルン

 

ビールを発明したのはドイツ人とされていませんが、世界的に有名なミュンヘンのオクトーバーフェストのおかげでビールはまさにドイツのトレードマークです。バイエルン州は中でも特別な役割を担っています。ドイツのビール醸造所のほぼ半分にあたる647か所の醸造所がバイエルン州にあります。とりわけオーバーフランケン地方は醸造所がドイツで最も密集している地域で、167か所、続いてオーバーバイエルン地方136か所、シュヴァーベン地方に84か所の醸造所があります。

人口当たりのビール醸造所の集積度でみると、オーバーフランケン地方バイロイト郡内にあるアウフゼスという小さな村はギネスブックに登録されているほどです。人口1287人の村にビール醸造所が4か所あります(2018年時点)。これだけの競争で生き残ることができるというのであれば、他よりおいしくないわけがないのです。ビール好きなならアウフゼス近郊のビール街道に沿ってビール巡りのハイキングをすることができます。

自由州の7つの行政区にある醸造所の数

バイエルン・ビールの歴史

 

世界最古の、現存するビール醸造所はヴァイエンシュテファン・バイエルン州立醸造所です。1040年、今から1000年以上も前にベネディクト会修道士の修道院内醸造所としてミュンヘンから約40㎞離れたフライジングのヴァイエンシュテファン山につくられました。ヴァイエンシュテファン醸造所の近くには、新たに伝統とモダンを併せ持つミュンヘン工科大学ヴァイエンシュテファン・センターが建っています。ビール醸造に関心があるなら、全バイエルンで広く行われている多くの醸造所ツアーに参加することができます。

バイエルンだからこそ

 

ドイツで醸造されるビールは1516年以来、バイエルン州のビール純粋令によっています。これにはバイエルン公ヴェルヘルム4世と弟のルートヴィヒ10世が大きく貢献しています。ビール純粋令に則って醸造されるビールには、以下の4つの原料のみが使用され、それ以外の原料は禁止されています。 

  • 麦芽
  • ホップ
  • 酵母
     

ビール純粋令に基づくバイエルン・ビールの伝統は、2015年にバイエルン州の無形文化遺産に登録されているほどです。バイエルン・ビール醸造協会のフリードリヒ・デュル会長は「バイエルン・ビールが無形文化財に登録されたことは、いかにバイエルン州の文化と伝統がビール醸造と深く結びついているか、ということを示しています」とコメントしました。 

 

成功のカギは革新的多様性

 

合計40種にも上るビールがバイエルン州で作られています。ドイツのビールの4つに1つはバイエルン州で醸造されています。ケラービール、ラガー、白ビール、ツォイグル(ゾイグル)、ボック、バイエルンピルスナー…麦芽の多様な品種と発酵方法の違いによってそれぞれの味が生まれます。バイエルン州の名物ビールと言えばフランケン地方バンベルクで作られるラオホビールがあります。麦芽をブナ材の上で燻すことで、燻製独特の深みのある味に仕上がります。

 

世界とバイエルンの新しいトレンド:クラフトビール

 

クラフトビールとは、小規模で手作業、あるいは独立系の醸造所で作られているビールのことを指します。500種以上の麦芽と200種以上の酵母、そしてホップの組み合わせは無限にあり、これによりクリエイティブなビールを生み出すことができます。
フルーティー、甘め、軽め、あるいは苦みのある・・・など、ホップのアロマがビールの風味を方向付けており、ビールの種類によって苦みや甘みの点数で組み合わせを考えます。珍しいビールを専門にしたお店がバイエルン州でも増えていることは、ここでもクラフトビールが高い人気を誇っていることを裏付けています。

どんなビールがあるのでしょう?

 

まず、使用されている酵母の種類によって上面発酵か、あるいは下面発酵か、というのが基本的な違いです。上面発酵ビールは室温15~20℃で、密閉されていないタンクで醸造されます。発酵が進むと表面に酵母が浮かんで来ます。下面発酵はそれに対し、4~9℃の冷却タンクで行われます。酵母はタンクの底に沈み、発酵はタンクの下方で進みます。

バイエルン州の上面発酵ビール

 

バイエルン州の典型的なビールといえば、上面発酵の白ビールです。小麦麦芽(ヴァイツェン・マルツ)を使うのでヴァイツェン・ビアを省略して「ヴァイツェン」と言われ、バイエルン州だけでなくドイツの他の地域でもよく知られています。フルーティーで爽やかな味わいが特徴です。ろ過されたクリアな白ビールをクリスタル・ヴァイツェン、無濾過の自然に濁った白ビールをヘーフェ・ヴァイツェンと呼びます。バイエルンで特に人気の高いヘーフェ・ヴァイツェンには淡色(ヘレ)や濃色(ドゥンケレ)があり、他にもノンアルコールや低カロリービールもあります。

バイエルン州の下面発酵ビール

 

無濾過の「ケラー」、あるいは「ツヴィッケル」と呼ばれるビールの他、下面発酵ビールには「ヘレ」があります。「ラガー」または「ランドビール」とも呼ばれます。ラガービールの歴史は16世紀にまで遡ります。当時はまだ十分な冷却方法がなかったため、下面発酵ビールは冬の間に醸造し、瓶に詰めて貯蔵していました。このビールに使われる小麦はやや甘めで、小麦本来の味わいを残しています。アルコール含有量は比較的低く、4~5%です。

ビアガーデンの伝統

 

下面発酵ビールは長期保存できるようにアルコール度数、ホップの割合、麦汁エキス濃度が高くなっています。「フォルビール」と呼ばれる麦汁濃度が11~14%のビールは3月(ドイツ語でメルツ)に仕込んで、その年の秋まで提供できます。最も有名なラガービールであるオクトーバーフェスト用のビールが昔は「メルツェン」と呼ばれた理由です。

岩窟を利用した地下室を夏の暑さから守るために、地上には枝の張り出した栗の木が植えられました。そこから最初のビアガーデンが誕生したのです。今ではビアガーデンは人気スポットで、特に夏のビアガーデンは賑わっています。地元の人は仕事の後の一杯を楽しみ、観光客にはオクトーバーフェストと同じくらい人気があるのがビアガーデンです。バイエルン州には19世紀に「ビアガーデン法」が制定され、そのおかげでビアガーデンには「おつまみ」を持ち込むことが許されています。

バイエルン・ビールのつまみとは?
 

シュヴァーベン地方の人がビールのお供に好んで食べるのはソーセージのサラダです。一方オーバーバイエルン地方では「マス」という単位で呼ばれる1リットルのビールに、昔ながらの「鶏の丸焼き」、あるいは「バイエルンのつまみ」を食べます。「バイエルンのつまみ」というのは例えば:

  • ブレツッェル
  • ラディッシュ
  • オバツタ(バイエルン州独特のチーズ料理

ビールを料理に使うこともよくあります。オーバーフランケン地方の名物、「バンベルクビールを使ったタマネギとキャベツのシュペッツレ」、ニュルンベルクの定番グルメ「レープクーヘンとチェリーのデザート黒ビール仕立て」などはほんの一例です。
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バイエルン州の居酒屋文化

 

各地のビール祭やビアガーデンの他、居酒屋文化もバイエルン州に深く根付いています。お昼前に仲間と集まって居酒屋でお酒を飲む―これは「フリューショッペン」と呼ばれていますが-これはバイエルン州ではよくあることです。バイエルン州の1人当たりの年間ビール消費量は130~135リットルで、これはドイツ平均の102リットル(2018年)をはるかに超えています。世界的に有名なミュンヘンの居酒屋には「ホフブロイハウス」があります。 

バイエルンのビールは世界のマイスター

 

バイエルン州、そして世界で最もおいしい黒ビールは琥珀色の「バロックデュンケル」、ヴェルテンブルクで作られているビールです。既に3回もワールド・ビア・アワードで金賞を受賞しています。そして、バイエルン州では毎年、「フランケン・ワインの女王」だけでなく、「ビールの女王」が選ばれています。ビールの女王になるためには、様々な種類のビール、ホップ、麦芽、そして醸造プロセスを熟知していなければならず、競争相手に勝たなければなりません。優勝すれば1年間バイエルン州の文化財であるビールのアイコンになれるのです。2019年に第10代ビール女王に輝いたヴェロニカ・エットシュタラ―は、ミュンヘン・オクトーバーフェストの開会式やブリュッセルで行われたバイエルン州欧州委員会代表の任命式にも出席しました。