Nanotechnology 2020年4月08日

ナノテクのトレンドセッター、バイエルン

私たちの身のまわりは、すでに多くのナノテクノロジーであふれています。携帯用充電器、無反射ディスプレイ、自動車の塗料、日焼け止めクリームなど、例をあげれば枚挙に暇がありません。私たちが日常的に当たり前のように使う多くのものにナノテクノロジーが生かされています。これらは全てナノ物質とその特性に基づき開発されたものです。ナノ粒子でどんなことが可能になるのか、なぜこの技術が将来より重要になるのか、ナノテクノロジーとは何か、そしてバイエルン州は何故この分野における先駆者なのか、明らかにしていきたいと思います。

そもそもナノテクノロジーとは何か?

 

ナノテクノロジーは、様々な分野に応用され得るものです。この技術において重要な鍵を握るナノ粒子のスケールについて、「1から100ナノメートルの大きさのもの」という基準があり、これに該当するものはすべてナノテクノロジーの扱う領域に含まれます。つまりこの分野に関わる研究者や専門家が相手にしているのは、1ミリメートルの一万分の一から百万分の一の世界です。ナノテクノロジーは非常に多彩な分野を互いに結びつける力を持つといわれます。それはすなわち、物理、化学、生物といった基礎的分野においてナノテクノロジーの利用で得られた知見が、通信、医療、工学といった応用分野において革命的な発展をもたらす可能性を秘めているということです。逆に言えばこれらすべての分野に携わる専門家は、この小さなナノ粒子をめぐって互いに議論を交わすことができると言えます。ナノテクノロジーは多くの分野に関わる「クロス・インダストリー・イノベーション」と言われます。

 

ナノテクノロジーは今日、どのような役割を担っているか?

 

人工知能(AI)および量子コンピューティングと並んで、ナノテクノロジーは21世紀の主要な科学技術分野の一つであるとされており、これらは研究界においても将来性のある最も重要なテーマと位置づけられています。特にこの3つの中でも、ナノテクノロジー分野は中心的な役割を果たしています。というのも量子コンピューターの実現にはそもそもナノテクノロジーが必要であり、数多の分野における人工知能の応用には高性能の量子コンピューターが不可欠だからです。つまりナノテクノロジーの進歩なくして、他の分野が発展していくことは難しいといえるでしょう。今日、個々の分野においても顕微鏡レベルで日々小さな革命が起こっています。例えば、医療生物分野における分子ナノテクノロジーは、人間の細胞にがんと戦うナノロボットを送り込むことを可能にしました。このようなことが、政府がナノテクノロジーの研究をさらに促進する理由の一つになっています。バイエルン州でも、様々な方法でこのナノテクノロジー分野を支援しています。

© NanoBioNet e. V.

バイエルン州はどのようにナノテクノロジーを支援しているのか?

 

まずバイエルン州経済省による支援として「クラスターオフェンシブ・バイエルン」が挙げられます。これは州内の企業や研究機関同士の結びつきを相互に強化することを目的にしていますが、この枠組みにおいて「ナノテクノロジー・クラスター」が設立されました。このクラスターから、以下に挙げるようなネットワークが生まれています。

 


これらの活動はナノテクノロジーの主要技術における分野横断的な交流を促進し、応用領域での多くの結果に資するものです。ナノテクノロジー・クラスターの具体的な活動範囲は: 

  • 各種プロジェクトおよびその運営、支援、コーディネート
  • 顧客に特化したイノベーションワークショップの実施
  • 研究・開発期間と経済界の連携支援
  • プロジェクト申請における支援
  • 応用研究の支援
  • 研究に関する国際的なマーケティング
  • セミナー、ワークショップの開催や展示会への参加
  • 知識の獲得と選別
  • チャンスとリスクについてのオープンなディスカッション


このようにナノテクノロジー・クラスターは、学術界、産業界、政界それぞれにとって、様々な業界から情報を集めたい時、あるいはパートナーを探したい時の、最初の相談先となっています。このクラスターの持つネットワークの力によって、スタートアップはもちろん既存の企業も、より容易に自分たちの知的財産を更に拡張し、国際的なレベルでの最新の知見を手に入れることができます。 

バイエルン州は研究機関にも直接支援をしています。2020年2月、フォルヒハイムにある「ナノテクノロジーと相関顕微鏡のためのイノベーション研究所(通称INAM)」は州政府から500万ユーロの援助を受けました。この経済的な支援によりこの研究所は、国際的に名高い専門家らも迎え入れた上で自立した運営と研究を行っています。 



バイエルン州経済省:INAMはイメージングおよび断層撮影を可能とする電子、イオン、レントゲン顕微鏡分野の基礎研究を進めることを目的に設置され、学際的な研究協力における具体的な応用について検証し、また中小企業と産業界のパートナーのために研究成果を提供します。「ビッグデータの活用と高度な演算により、人工知能で補完された多くの応用研究が行われるでしょう」

 

私たちの将来に対してナノテクノロジーが持つ重要性や多面性は、政治レベルでも十分に認識されており、それゆえ今日ではこの分野における様々な研究、開発、イノベーションプロジェクトが促進されています。ですから、フォルヒハイムの研究所がその支援の対象に選ばれたのは決して偶然ではありません。INAMは、医療技術分野の専門家が集まるヨーロッパでも有数のエアランゲン・ニュルンベルクにあるメディカル・バレー EMNから車でわずか30分の距離に位置しているからです。

       

バイエルン州はドイツのハイテク産業の故郷

医療バイオテクノロジーインダストリー4.0デジタル化、どの分野においてもバイエルン州は企業にとってヨーロッパにおける最も魅力的な場所のひとつです。これは多くの国際的な企業も認めるところで、例えばマイクロソフトやアマゾン、アップル、グーグルといった企業も大規模拠点をバイエルン州に置いており、やセロニス、アディダスといった革新的なバイエルン企業と近所づきあいをする環境にあります。